設立趣意

近年、我が国では自然災害の激甚化や複合化の傾向が顕著であり、将来の被害軽減に向けた対策が急務である。そこで必要とされる地震・水災・風災といった様々なペリルを対象としたリスク評価や被害予測の今日的なアップデートのためには、被災時や現況データの収集・整備・更新が不可欠であり、とりわけ一つ一つの建物の性能や被害要因に迫ることができる個別建物の各種属性(構造形式・規模、改修履歴など)のデータ整備の重要性は高い。

参加者の協働により、これらデータをデジタルデータとして整備・共有できれば、研究者のみならず関係省庁・自治体・民間団体・一般市民など、幅広い災害対策関係者にとって極めて有用な情報基盤となる。さらに、この情報基盤は個別建物の各種属性をデジタルの都市空間上で可視化するという点で、防災分野にとどまらず、観光や文化財保全、不動産管理などの分野での活用も期待できる。

一方、近年では国土交通省のプロジェクトPLATEAUによる建物の三次元データの整備、公開が進み、広域での活用は進みつつある。しかしこれらは主に都市の広域レベルの活用を目指したものであり、建築分野のような個別建物レベルの視点からの調査、設計データをどのように融合、活用していくかの観点はほとんど検討されていない。

そうした中で、東京大学生産技術研究所・腰原研究室および東京大学空間情報科学研究センター・関本研究室は、損害保険料率算出機構の受託研究の一環として、実建物群の被害予測システム構築に向けた研究を進めてきた。特に、2016年熊本地震ならびに2023年の水災で被害を受けた熊本県益城町を対象に、オープンデータを活用した個別建物単位の建物属性の整備やそれに基づく被害推定を面的に行うシステムの開発に取り組んでいる。しかし、この三者だけで実現できることには相応に限りがある。

以上を踏まえ、建物情報基盤の整備・共有・活用の目的・理念に賛同する者を募り、この課題に協働して取り組む拠点として、「建物情報基盤の整備・共有・活用に関する研究会」を設立する。本研究会は、個人情報保護の規律のもと、将来にわたり拡充・更新可能な建物情報基盤の整備・共有を確立し、その活用を通じ災害レジリエンスの向上に資することを目的とするものである。具体的には、建築構造・防災・地理空間情報の有識者に加え、関係省庁や自治体、民間団体の実務者が連携し、自然災害の被害予測に必要なデータの収集とその方法の整理、ならびに、それらのデータに基づく被害予測手法およびデジタル空間での共有や活用方法について、四半期ごとに開催する研究会で議論する。あわせて、現在並行して活動が進められている建物情報基盤や被害予測に関する各種プロジェクトとの連携体制の構築を目指す。

2025年5月
東京大学生産技術研究所・教授
腰原 幹雄
東京大学デジタル空間社会連携研究機構・機構長/東京大学空間情報科学研究センター・教授
一般社団法人 社会基盤情報流通推進協議会 代表理事
関本 義秀
損害保険料率算出機構 リスク業務部・専門職部長
山口 亮
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